ミネラルとは、ヒトの体を構成する主要な元素4つ(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素の総称で、ミネラル類とも呼ばれます。
近年では、アルツハイマー型認知症(AD)やパーキンソン症候群などの神経変性疾患とミネラルとの関連性が注目されています。
ミネラルはヒトの体内では合成ができないため、食品から摂取する必要があります。特にヒトの体に必要とされる16種のミネラルは「必須ミネラル」と呼ばれ、1日の摂取量がおよそ100mg以上の「多量ミネラル」と、100mg未満の「微量ミネラル」に分けられます。
多量ミネラル
種類 | 主なはたらき | 多くを含む食品 |
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ナトリウム | 細胞外液の浸透圧維持 体液の酸・塩基平衡の調節 |
食塩、味噌、醤油 |
カリウム | 細胞外液の浸透圧維持 体液の酸・塩基平衡の調節 神経系への刺激伝達・活動 筋肉の収縮および弛緩 |
野菜、果実、豆類 |
カルシウム | 骨や歯、血液、組織液、細胞の形成 | 牛乳、乳製品、小魚、えび、大豆、野菜、海藻類 |
マグネシウム | 骨や歯の形成 体内の酵素の補因子 エネルギー産生や代謝への関与 |
緑色野菜、海藻類、穀類、ナッツ類 |
リン | 骨やATPの形成 核酸や細胞膜リン脂質の構成成分 |
肉類、牛乳、乳製品、果実、穀類 |
多量ミネラルのうち、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびリンについては、通常の食生活では欠乏することはないと考えられます。
しかしながら、高温環境での労働や運動時の高度発汗においては、多量のナトリウムが体内から失われることがあります。近年、日本国内における夏季の気温上昇が著しいこともあり、熱中症対策としてナトリウムの摂取が推奨されています。
カルシウムは通常の食生活であっても不足・欠乏する場合があります。
ヒトの骨はカルシウムによって形成されており、常に吸収(骨からのカルシウムなどの溶出)と形成(骨へのカルシウムなどの沈着)を繰り返しています。特に成長期には、形成が吸収を上回り骨量が増加するため、カルシウムが欠乏すると、骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化などを招く場合があります。
微量ミネラル
種類 | 主なはたらき | 多くを含む食品 |
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鉄 | ヘモグロビンや各種酵素の構成 酸化還元反応 |
畜肉、鶏肉、魚肉(赤身)、緑黄色野菜、豆類、海藻類 |
亜鉛 | 体内酵素の補因子 ホルモンの合成・分泌の調整 DNA合成、タンパク質合成、免疫反応の調整 |
牛肉、鶏肉、豆類、貝類、かに、海藻類 |
銅 | 体内酵素の補因子(鉄代謝、エネルギー生成、活性酸素除去、神経伝達物質の産生など) | 豆類、ごま、貝類、甲殻類 |
マンガン | 体内酵素の活性化 | 穀類、豆類、種実類、抹茶、煎茶 |
ヨウ素 | 甲状腺ホルモンの合成 | 海藻類、味噌、醬油 |
モリブデン | 体内酵素の補助(糖質や脂質の代謝など) | 牛乳、乳製品、豆類、穀類 |
セレン | 抗酸化作用、有害物質(水銀など)の無毒化 | 魚介類、卵、肉類、穀類 |
クロム | インスリン作用の増強 | ビール酵母、肉類、穀類 |
微量ミネラルは、成人においては通常の食生活では欠乏することはないと考えられる一方、乳児は成長が早く、成長に伴い必要摂取量も増えるため、欠乏症に罹患しやすいとされます。また、月経のある女性の場合は、月経血による鉄損失および鉄欠乏性貧血が生じる恐れがあります。
過剰摂取については、多量ミネラルおよび微量ミネラルのどちらも通常の食生活で生じる可能性はほとんどありませんが、サプリメントの不適切な利用によって過剰摂取が生じる場合があるため、サプリメントを利用する際は摂取量に注意が必要です。
ミネラルの分解方法
ミネラル分析では、前処理として試料中のミネラルを分解します。食品やミネラルの種類によって、適する分解方法が異なります。
種類 | 主なはたらき | 多くを含む食品 |
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灰化法 | 試料を500~550℃の高温下で灰化させて抽出 | カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガンなど |
塩酸抽出法 | 塩酸を用いて試料中のミネラル成分を遊離させて抽出 | ナトリウム、カリウムなど |
ミネラルの検査方法
ミネラルの測定には、原子吸光光度法(Atomic Absorption Spectrometry:AAS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP-MS)などが用いられています。
従来から用いられている原子吸光分析法に比べて、近年普及してきた誘導結合プラズマを利用した分析法は、検出精度がより高く、かつ多くの元素を同時に測定することが可能です。
種類 | 概要 |
---|---|
原子吸収分析法 (AAS) |
試料を高温化で原子化したのち、光を照射し、吸収される光の量(吸収度)から元素の濃度を測定する。 |
誘導結合プラズマ発光分光分析法 (ICP-AES) |
高周波誘導結合プラズマ(ICP)内に液体試料を霧状化して導入し、プラズマのもつエネルギーにより試料を励起発光させ、分光し、波長からの元素の定性、強度から定量を行う。 |
誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS) |
高周波誘導結合プラズマ(ICP)に液体試料を霧状化して導入し、プラズマによってイオン化した元素を分離、検出。 濃度既知の標準溶液と試料のイオン強度を比較することで定量を行う。 |
ビューローベリタスエフイーエーシーでは、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を主力にミネラルの検査を実施しています。
検査方法や詳細についてはお気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- 長澤治子(2017)食べ物と健康 食品学・食品機能学・食品加工学 第3版
- 吉田香,桐木麻紀,久保田祐子,上甲有利,北村真理(2013)サプリメントによる微量元素過剰摂取の可能性について―サプリメントの使用実態・意識調査―. Trace Nutrients Research 30, 74−78. Harsh Shah, Fereshteh Dehghani, Marjan Ramezan, Ritchel B. Gannaban, Zobayda Farzana Haque, Fatemeh Rahimi, Soheil Abbasi, Andrew C. Shin(2023)Revisiting the Role of Vitamins and Minerals in Alzheimer’s Disease. Antioxidants. 12(2), 1-32.
- 消費者庁「別添 栄養成分等の分析方法等」